哲学者 梅原 猛氏に学ぶ

梅原 猛先生は、日本を代表する誇りとしたい哲学者である。

日本の思想の本質を、人間と自然とを分けない独自の思想と喝破し、
人類の思想的使命は、西洋近代思想を批判して、新しい文明の原理を
造ることにあると諭す。

西洋哲学とアジア哲学の本質的な違いは、自然への考え方の違いにある。

西洋文明を取り込んだ日本が、これまで西洋文明が経験しない二つの災禍
を経験した。

一つは、原爆であり、もう一つが原発である。
トインビーは、西洋文明を取り入れる時代は終わった。

非西洋文明が、自らの文明の中で、科学技術を取り入れる新しい文明を
造らねばならないと主張しているとのこと。

今の文明はどこか間違っている。鎮魂思想という考えは一つの指針で
「一粒の麦死なずば」である。後の世に残していく麦を、磁力を掘って
思想となって、若い人に受け継がれて残っていって欲しいと話される。

談話の中に興味深い以下のお話があった。

楽天は中唐の詩人(772年〜846年)であるが、「白楽天」という能が
面白い。

日本の国情を探りに筑紫にやってきた唐の詩人白楽天住吉明神
老漁師の姿に化けて迎え、問答の末に、中国では詩はインテリだけのもの
に対し、日本はすべての人が詠むと違いを説いた。

自然の音、松風の音も、波の音も歌であると説き、結果、白楽天は議論に
負けて中国に逃げ帰る。

この話の根底にある「草木国土悉皆成仏」という思想は、インドや中国にはない。
インド仏教の衆生とは、人間と動物に限られ、植物は排除される。

日本の神道の本質は、「自然へのおそれ」にあり、供物を供え、祈りを捧げる。
日本文化の根底に、「草木国土悉皆成仏」という縄文文化以来の伝統があった。

西洋思想は、自然との共生思想でなく、自然を支配する思想に他ならない。
ここに、先生が諭す、日本文明の本質を探り、西洋文明を進化させていくべき
日本人の役割があるのかも知れない。
と改めて感じた。